触れたい指先、触れられない心
わたしたちが通された部屋は、この前の部屋とは違って静かな部屋だった。
部屋の中にはわたしとマコと男性だけみたい。
「んで? 霞って男は一体何者なんだよ」
「……それだけは本当に言えない。でも、ここに通ってさえいればまた会えるはず」
「どうして霞さんはこのバーに……」
「さぁ、俺もあの人と会話をしたことがないんだ……だから正直教えられることは何もない」
でも、ここに来れば霞さんにまた会えるかもしれない?
それが分かっただけでも、かなりの進展だよ。
「だがよ、詩音はまだ未成年だぞ。こんな危ないバーに通うなんて……」
「だから俺もあんまりお勧めはしない。第一未成年だって知ってたら誘わなかったくらいだし」
「ごめんなさい……」
危ないのはわかってるけど……ここに来る以外に手掛かりはなさそうだし、諦めるわけにもいかない。
「もう一回だけ……それ以降はもう来ないって約束するから……お願い」
「あのなぁ……なんでそこまで」
「そうだよ、なんで……あの人なんだよ。あんな危険な人……」
「え……それって……」
「……なんでもないよ。ほら、話せる情報はこれくらい。早く帰れよ」
男はそれだけ言い残すと、そそくさと部屋を出て行った。