触れたい指先、触れられない心
わたし、どうしてここまでして霞さんに会う事を願っているんだろう……
こんな事初めてだから全然分かんないよ……。
元カレに会いたいなんて思ったこと、一度だってなかったのに。
どうして霞さんにはこんな……
「これって好きって事なのかなぁ」
「酒飲んでないとはいえ、俺に絡みに来んなよ……」
めんどくさそうに返すのは、わたしをバーに誘い込んだ男。
「そういえば、あなたの事なんて呼んだらいい?」
「春樹でいいけど……って、俺はお前と馴れ合う気はねーぞ」
「春樹ね、了解! わたしの事は詩音って呼んで!」
なんだかんだ言って、春樹はわたしを見捨てない人だと思ってる。勝手な想像だけど。
「あれから、霞さん来てないんだよね?」
「あぁ、見てねぇな」
わたしは「そっかぁ……」と残念そうに口を尖らせた。
もしかしたら、もうわたしに会わないように、二度とここに来ないつもり……とか?
それなら最後の賭けすら無残に散る。
一体どうすれば……
「詩音はさ、どーしたいんだよ。あの人の事好きなんだろ?」
「好き……?」
わたしの言葉に春樹は驚く。
これが好きって事なの?
だって、元カレと付き合ってた時はこんな感情知らなかった。
胸が苦しくなったり、涙が溢れたり……。でも、一言で嬉しくなったり……
これが好きって感情なら……わたし、元カレの事好きじゃなかったってこと?