触れたい指先、触れられない心
▼素直になれたら▼
◇◆◇
今日の夜も懲りずにあのバーへと足を運んだ。
もう何日これを繰り返してるんだろう。
自分でもそろそろ諦めた方がいいことなんて分かり始めていた。
でも、これ以外に方法がないことも、同時に分かっていたから、こうせざるを得ないんだ。
だけどこの日はいつもと様子がおかしかった。
「おい詩音! ……なんでこんな時間に来た?」
バーに入るなり、春樹が強引にわたしの腕を掴んだ。
春樹の言っている意味が分からず、わたしは困惑することしかできない。
「え……今日は帰りに友達とご飯食べてて……」
「なんで今日に限って……」
「え……それって……」
春樹の呆れたようなため息と、濁された言葉で察した。
「……さっきまでいたよ」
霞さんがこのバーに来てた……?
さっきまでって、もういないってことだよね……
「どうしよう……! 今からでも……!」
「おい! 詩音!」
止めようとする春樹の腕を振り切って、わたしはバーを飛び出した。
こんなチャンス、次いつ起きるか分からない。もしかしたらまだ間に合うかもしれない。