触れたい指先、触れられない心


「そんなの、どうだっていい……」



 わたしは霞さんを抱きしめる手を、離さないと言わんばかりに強めた。
 この手を離したらまた会えなくなるかもしれない。


 なら、ずっとこのままで……



「霞さんがどんな人だとしても……わたしの中の霞さんは、優しくて暖かくて、こんな非力なわたしを守ってくれる、素敵な人です」
「詩音、俺は……」




「わたしは、あの誓いを終わらせるつもりはないです。歳が問題なら何年でも待ちます。そんなの、霞さんに会えなくなるより全然マシです……!」



 まだ、想いを全部言い切ってないのに……涙が溢れて言いたいことを邪魔する。


 でも、ここで素直な言葉を紡ぎ続けないと、きっと霞さんの心には届かない。




「霞さんに二度と会えないことが、わたしにとって一番つらいんです……。お願い、これからもそばに居て……。何にでも巻き込んでくださいっ……霞さんと一緒ならそんなの全然つらくないんです!! ……だからっ!」

「分かった、もう良い。……落ち着くんだ」


 霞さんはわたしの手を優しく包み込んでくれた。



「だから、……一生を添い遂げさせてください」



 霞さんは大きくため息をついた。



「あの時の言葉が、まさか本当とはな……」
「え……?」
「初めて出会った夜の事だ」



 あ、それって……わたしが酔いつぶれていた時?


「そ、それはもう忘れて下さい……わたしあの時お酒初めてで、酔いつぶれてて……覚えていないんです……」


「そうか、詩音は俺に何度も何度も゛好き”と口づけをしてきた。本来なら軽く払いのけるはずだが……何故か体が動かなかったんだ」



「それって……」


「……詩音と一生を添い遂げるのも悪くないだろう」



 霞さんは振り向き、わたしの目を真っすぐに見てそう言った。
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