触れたい指先、触れられない心



 路地裏を抜けて大通りに出ると、一台の黒い車が止められていた。
 かなり手入れがされていて、車の知識が皆無なわたしが見ても、高級車だと一目で分かる。


 その車からは、一人のスーツ姿の男性が降りてきた。

「おかえりなさいませ。……その女性は?」
「家まで送って行く」
「畏まりました」


 男性はそう言うと、車のドアを開けてわたしをエスコートしてくれた。
 さすが若頭さん……詳しいことは分からないけど、かなりお偉い立ち位置なんだよね……?


「……また新しい女か」


 その男性は、霞さんが車に乗ったのを確認すると、わたしにしか聞こえない声で呟いた。


「え……?」
「どうぞ、乗ってください」

 半強制的に車に乗せられ、ドアが閉められた。



 今の、どういう意味……
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