触れたい指先、触れられない心

 ……”また”って一体どういう事? 霞さんは何人もの女の人と……
 ダメだ、せっかく霞さんの隣にいるのに、こんなこと考えたら……


 その頬も、長い髪も、綺麗な手も……最初に触れるのはわたしであってほしかった。
 そんなのはただのワガママだって分かってるのに、なのになぜがモヤモヤがわたしの頭を埋め尽くす。


「なっ……泣いているのか?」


 霞さんの言葉でハッと我に返る。目元に触れてみると濡れていた。
 どうしよう、霞さんにだけはこんなところ見せたくなかったのに。


「な、何でもないですよ……? 元カレに振られた事思い出しちゃって」



 霞さんに嫌われないように、適当な作り話をした。
 本当の疑問は聞けなくて、どんどん嫌な予感だけが溢れてくる。




 そうだよ、わたしにだって元カレがいたんだ。
 霞さんにだって元カノがいたって全然おかしくないし、むしろこの美貌でいない可能性の方がゼロに近いくらい。

 わたしは何でそんな普通の事で泣いてるんだろう。




「すまないが今拭く物がないようだ……我慢してくれ」



 そう告げると、霞さんは指でわたしの涙を拭ってくれた。
 突然目元に触れた温かい感触に、わたしは思わず肩が跳ねる。

「……っ! かすみ、さ……」
「……突然触れてすまない」

 霞さんは気遣うように優しく涙を拭ってくれる。
 こんな優しく触れられたのは初めてで、心の奥がきゅっと締め付けられるような感覚を覚えた。


 こんな事で泣いてるなんて知ったら、それでも霞さんはわたしに優しくしてくれるのかな?
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