触れたい指先、触れられない心



 幸せな時間は何故かすぐに過ぎるもので、もうこの角を曲がると家が見えてくる。


「あの、ここで大丈夫です……」
「もう日を跨いでいる。両親に謝りに行く」

 停車した途端、霞さんはそう言って車から降りようとする。


「大丈夫です! きっと二人とも寝てるので……」
「……そうか」



 これでもう霞さんとお別れなんだ……



 でも、あの時とは違う。
 永遠のお別れじゃなくて、また会える。


 それだけでこんなにも違うなんて……


「霞さん、今度は”さよなら”じゃないですよね……?」
「あぁ、また会えばいい。だから気を落とす必要はない」

 霞さんはそう言ってわたしの頭を優しくなでた。


 ”お別れ”って悲しいことだと思っていたけど、”また”があるから今はそれが幸せだと思えるんだよ。




「だが、もうあのような危険な場所に行くのはやるんだ。……何かあればここに電話するんだ」


 霞さんはそう言って一枚の紙をわたしに手渡した。
 そこには電話番号が書かれている。



「……っ!! はいっ!」

 わたしは嬉しくて思わず声が上がる。
 霞さんの電話番号……これでいつでも霞さんの声が聴ける……!


「それでは、また」
「はい! また、会いましょうね……!」


 そう告げると、わたしは車を降りた。
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