触れたい指先、触れられない心
「それで、今日は夜景を見に行くと聞いたが……」
「あ、そうです! もう割と暗くなってるし……着くころにはちょうどいいかと!」
「そうか、楽しみにしておく」
霞さんはフッと笑った。
楽しみなのはわたしだけだと思ってたけど……霞さんも同じなのかな……?
わたしも霞さんにつられて、フフッと笑みがこぼれた。
「あれ……霞……?」
背後から聞こえてきた女の声に、思わず固まる。
え、女……? しかも、霞って……
振り返ってみてみると、見知らぬ女の姿が。
サラサラの茶髪ショートヘアで、見た感じとても背が高い。スタイルもよくて、口元のほくろが特徴的。
げっ……なにこの美人。
霞さんの何なの?
「何の用ですか?」
わたしは霞さんの前に出て女に問かけた。
「あはは、何この子。ちっちゃくて可愛いね~。久しぶりに霞に会いたいと思ってたんだぁ」
女はわたしを見るなり、大げさに手をたたいて笑う。
む……嫌いなタイプの人間だ。
ギャルみたいな悪気のない話し方……
「…………」
「詩音、殺気を出すな。……今は二人の時間にしたいんだ、遠慮してくれ」
霞さんはわたしの頭にポンと手を乗せ、言った。
「……へぇ~。今はその子なんだね」
……っ! まただ、その言葉……
この前のスーツの運転手と同じ。”また新しい女か”だとか”今はその子なんだね”とか……
「……これからもです」
わたしがポツリと呟くと、女は「え?」と聞き返す。
「これからもずっと、霞さんはわたしのです……っ!!」
そんな恥ずかしい事を言いながら、わたしの目からは何故か涙が溢れていた。
こんなこと言ったって、それを霞さんが許可してくれたって、心の中にある不安は消えないし、きっとどんどん培っていくと思う。
でも、霞さんの隣はわたしでありたい、たとえどんなに不安になったとしても……かまわないから……。
「へぇ~、そっか。……じゃあ、またね? 霞」
女は、意味ありげな視線を霞さんに送って、歩き出した。
「……恋愛って、そんな簡単な物じゃないよ」
そして、すれ違いざまにわたしにしか聞こえない声で女は呟いた。