触れたい指先、触れられない心

「詩音、お腹減っていないか?」
「え、お腹は減ってないですけど……喉が渇いたので飲み物買ってきますね! 霞さんは何が良いですか?」
「いや、俺の分は……」
「遠慮しないでください! 今日わざわざ来てもらったお礼です!」
「なら、詩音に任せる。……かたじけない、次は俺が出す」


 そして、わたしはテイクアウト専門のカフェへ向かった。
 場所もそんなに離れてないし、きっとすぐ戻れそう。
 人もそんなに並んでもいないし、というかあのカップルだけ……


 って……あれ……




「詩音……? え、何でここに……?!」
「春樹……どうして」


 わたしの前に並んでいたのは春樹。どうしてこんなとこに?


「関係ねーだろ。お前こそ一人でどうしたんだよ?」
「ふっふっふっ、霞さんとデート中なの。春樹は一人なんでしょー?」


 わたしがにまにまと問いかけると、春樹は眉をひそめた。


「あいにく俺も一人じゃねーよ。……って、詩音……霞さんとって……」
「ん……?」
「……っ! おい、ついて来い! 急ぐぞ!」


 春樹はわたしの腕を強引に引っ張って店を飛び出した。
 訳も分からないまま連れてかれるわたし。


「ちょっ……! 離して!」
「おい、抵抗すんな! ほら、行くぞ……っ!」


 止まろうと抵抗しても力には敵わず、また引っ張り出されてしまう。
 春樹は一体わたしをどこに連れ出そうと……ってさっきわたしと霞さんがいたベンチの方じゃん……



 そして、やっと見えてきたベンチに霞さんの姿はなかった。

「……やっぱり」

 分かっていたかのように呟く春樹。
 何……どういう事?
< 41 / 84 >

この作品をシェア

pagetop