触れたい指先、触れられない心


「お前、サヤカって知ってるか? 茶髪ショートヘアの」


 あ……さっきの女……? 
 その女が一体……


「……! もしかして……!!」
「俺あいつとカフェ来てたんだけどさ、突然何か見つけたかのように走ってどっか行っちまってさ」


 どうしよう……霞さんもいないって……そういう事だよね?


「……観覧車かも! 行こう!!」


 そう提案すると、わたしは全力で駆け出した。
 あの女と霞さんを二人にするわけにはいかない。



 だって、あの女はまだ霞さんの事が好きなんでしょ……? そんなの放っておけないよ。
 あの人、わたしより前から霞さんの事を知ってるし、すごく親しげだった。


 もしかしたらあの人は元カノで、霞さんにも未練があったら?


 そんなの、ヤダよ……






「霞さん……っ!!」





 やっぱり嫌な予感は的中で、観覧車の乗り場にはあの女と霞さんが。
 



「あ、もうバレちゃったか。……でも、ゴメンね」



 女はそう言うと、霞さんを観覧車に強引に乗せ、係員によって扉が閉められた。





「なんで……」



 なんで霞さん、抵抗しなかったの……
 それって……もう、そういうことじゃん。


「詩音……」


 春樹が心配してわたしの肩に手を置いた。
 けど、わたしはあの観覧車から目が離せない。



 どんどん高い位置に向かう二人。
 二人は向かい合って座ってたけど、あの女は霞さんの隣へと座りなおした。



 そんな二人をこれ以上見てたくなくて、わたしは反射的に目を逸らした。



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