触れたい指先、触れられない心
「やだ……なんなの? なんで……」
「詩音、サヤカは霞さんの最初の婚約者だ……」
そんなの最初からなんとなく察してた。
でも……霞さんに違うって言ってほしかった、信じたくなかった。
「でも、今はわたしだもん。わたしが霞さんの婚約者なのに……」
「じゃぁなんで泣いてんだよ……」
強がってるつもりでも、やっぱり涙は絶えずに溢れる。
そんなわたしに同情してか、春樹はわたしを優しく抱きしめた。
「だから最初に忠告したのに……」
「うぅ……っ……でも……っ、好きなんだもん……」
春樹はため息をついてわたしの背中をゆっくりと撫でる。
そのおかげか、少しだけ楽になった気がした。
「春樹は……あの女の何なの?」
「ただの友達だ。サヤカもあのバーの常連だしな」
そっか……
なんで二人は婚約を破棄したんだろう……
今となってはそんな事関係なくなってるけど……
あの女が未練たらたらなのはまだ許せる、
でも……あの時霞さんが抵抗しなかったことが、一番ショックだった。
でも、わたしは婚約予定ってだけで、彼女でもなんでもない……霞さんにとって大切な存在ですらないんだ。
なにか口出しする権利なんてない。
「あはは……もう、このまま帰っちゃおうかな。……多分わたし邪魔だし」
「ちゃんと向き合った方がいいんじゃねーの? 結果がどうであれ、諦めなくていい可能性だって……」
「でも、霞さん抵抗しなかった」
わたしの言葉に春樹は黙り込む。
だって、それが証拠じゃん……
そうこうしているうちに、観覧車は地上へと近づいてくる。