触れたい指先、触れられない心
「ほら、行って来いよ」
そう言って、春樹はわたしをそっと放し、ポンと頭に手を乗せた。
「……うん」
降りてくる二人。
女は心なしか落ち着いて見えた。
「……詩音」
「あの、何で二人で観覧車に?」
霞さんの言葉を遮ってわたしは問いかけた。
「あたし、めんどくさいのはゴメンなんだよねー。満足したし、帰るね」
「ちょっと! ……逃げるんですか?」
わたしの言葉に反応して、女はピタリと立ち止まり、振り返る。
「……え? まだ諦めた訳じゃないから。また観覧車乗ろうね。霞」
女はまた意味ありげに微笑んで立ち去って行った。
「詩音、何でお前はそうやってすぐ喧嘩売んだよ……」
「だって……」
春樹は大きなため息をついた。
「霞さん……どうしてですか……あの人が好きなんですか?」
「それは違う。だが……今も想っていると告げられた」
霞さんはきっぱりと否定した。
「わたしは、観覧車に乗るのを拒んでくれると思ってました……」
「すまない……」
霞さんは申し訳なさそうに謝る。
わたしの想像してた最悪の結果とは違って、なんて言葉を出せばいいのか分からない。
それに、もう限界だ。これ以上モヤモヤしたら……
「……わかりました、大丈夫です。……もう、帰りますね!」
最後に無理やり笑って、その場を走り去った。
霞さんの顔なんて見れなかった。
それに、これ以上会話なんてしたらまた泣いちゃいそうで……って絶対少しは泣いてたんだけどさ、霞さんに心配かけたくないし、迷惑なんじゃないかって。
こんなの嫌なのに。
霞さんに好きになってもらおうと頑張ってるはずなのに、気付いたら嫌な部分ばかり見られちゃってるんだ。
どうして霞さんがいるときに限って、かっこ悪くなっちゃうのかな……