触れたい指先、触れられない心
「詩音……!」
突然背後から呼び止められ、腕を掴まれる。
どうして……追いかけて来たの……
こんなの涙隠せないじゃん……
「傷付けてしまったのなら謝る。すまない」
「本当に……っ、大丈夫なんで……」
そう返して必死に涙を隠した。
これ以上かっこ悪いところを見せたり、幻滅されるのは嫌だ。
きっとバレバレなんだろうけれど、こんな顔は見られたくない。
あの女に嫉妬して、こんなボロボロで汚い顔を見られるのは絶対に嫌だ。
「誤魔化すな。ちゃんと話してほしい……俺はまた詩音を傷付けてしまったか……?」
霞さんは悲しげな表情でそう言って近づく。
そんな目で見られると、わたしはもう動けないし、誤魔化すこともできない。
「ただの嫉妬なんです……」
これ以上は隠せない。と、わたしは観念したように口を開いた。
「あの女と霞さんが観覧車に乗るとき、霞さんが拒まなかったのも、あの女が初めての婚約者で、今も未練があるからかな……とか。そんなこと考えちゃって……わたしは……」
言葉の途中で涙が止まらなくなって、上手く話す事が出来ない。
「観覧車に乗った理由は、あの場にいたら詩音に話を聞かれてしまうから嫌だ、と言われたからだ。……俺だって快くは思わなかった」
「霞さんはあの女に対して未練はないんですか……?」
「あぁ、少しも残っていない」
霞さんは嘘偽りない表情でキッパリと告げた。
「今は、詩音だけを見ている」
その言葉を聞くなり、また別の意味で涙が溢れた。
霞さんはいつも、わたしが欲しい言葉以上のものをくれる。
それは嘘でもお世辞でもなく本当の言葉だから、わたしはまたこの人を好きになる。