触れたい指先、触れられない心



「まさか、覚えていないのか?」
「えっ?! 冗談じゃなく、本当ですか?!」
「……冗談を言ってどうする」




 うっ……確かに。
 記憶がなくなるほど酔って、この男性にキスして……そしてなぜか二人で閉じ込められている。

 全く状況が分からない。




「あの、キスだけでしたよね?」
「というと?」
「その……えっち……とかしてない、ですよね?」





 顔を真っ赤にしながら言い終えると、男性はゴミを見るかのような目でわたしを見た。



 あ……してないってことだよね? すっごいドン引きされてるけど。




「本当に何も覚えていないんだな。お前が昨夜何をしていたのか事細かに説明した方がよいか?」
「いっ、いえ! 大丈夫です……おかまいなく……」


 これ以上醜態を暴露しないで……ほら、知らぬが仏ってことわざがあるように……


 それにしてもこの男性、とっても丁寧な話し方をする……きっと育ちもいいんだろうな……。


「あの、そういえばお名前聞いてなかったですよね……教えてくれませんか?」



「四宮 霞だ」


「四宮さんってお呼びすれば……?」
「好きに呼べ」
「で、では霞さんで……」
「良いだろう」


 きっとここを出たらもう会うこともないのだろうけど……
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