触れたい指先、触れられない心


 サヤカの後姿を見届けた後、霞さんの元へ戻ろうと振り返る。
 


「あ……すまない、聞くつもりはなかったのだが」


 気まずそうに目を逸らす霞さんの姿が。


「ごめんなさい、勝手なことして……」
「いや……詩音の言葉にはいつも胸を打たれる。俺なんかのために……」


 自分でもびっくりした、あんなに激しい行動に出るなんて思ってもみなかった。
 しかも、それを霞さんに見られてたなんて……どうしよう


「ドン引きしましたよね……?」
「そうではない、そんな事あるはずがない……」


 霞さんは何かを言いかけて黙り込んでしまった。
 一体サヤカと何を話したの?

 きっと霞さんの事だ、サヤカを責めたりはしなかったと思う……


「あの、何を話していたんですか……?」
「なっ……! 何故そのようなことを聞く?」


 驚くと同時に、顔を真っ赤に染め上げる霞さん。
 もしかして……霞さんはサヤカの事を……?

 そんなわけない、だって霞さんはわたしとの時間が大切だって……


 じゃあどうしてこんなに真っ赤に?

「もしかしてサヤカの事好きに……」
「それだけは絶対にない。……約束したではないか。詩音だけだ、と」
「はい……じゃあ、何故……」
「……っ! ……コホン。……そろそろ帰ろう、送る」


 霞さんは何かを隠すように咳払いをした後、歩き出した。


 え……? サヤカの事じゃないなら一体……

 まあ、きっとこの感じだと教えてもらえなさそうだけど……残念。





「俺が……詩音を好き、だと……?」





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