触れたい指先、触れられない心
「あの、一体何を言ったんですか?」
「詩音には聞かせられぬことだ。大したことではない、気にするな」
そうは言われても気になる。サヤカとの会話だってそう。
でもきっと今回のは……きっと良からぬことだよね? 二人の逃げっぷりからしてそうとしか思えない。
「わかりました……それで、今日はどうしたんですか?」
「あ、いや……特に理由はないのだが……」
理由もなしに霞さんが来てくれることは初めて。一体何があったんだろう。
「迷惑だったか……?」
「そんなわけないです! わたしはいつでも霞さんに会いたいと……あ、いや……その……」
どうしよう、嬉しくて余計なことまで口走っちゃった……
「詩音は、俺に会いたいと思うのか……?」
「え……あ、はい……もちろんです。というか常に……」
全部言ってしまわないように口をつぐんだけれど、言っちゃえばどこにいても霞さんに会いたいって考えている。家にいようが授業中だろうが関係なく……
「そう……か」
霞さんは動揺したような表情を見せた。
なにか変なことを言ってしまったかな……? いや、思い返してみたらかなり変態みたいなこといっぱい言っちゃってるんだけどさ!
「今からこの上なく失礼な願いを言うが……許してくれ」
失礼な願い?! 一体何……?
「婚約破棄とかの類以外だったら……大丈夫です……!」
わたしがそう返すと、霞さんは大きくため息をついて口を開いた。
「俺と…………キスをしてくれないか?」