触れたい指先、触れられない心


「ごめんなさい……霞さん……」

 こうなったらもう謝るしかない……
 どうすればわたしと婚約破棄されずに済むんだろう、わたしと添い遂げたいと思ってもらえるんだろう?

「詩音、何を……」
「わたしは、霞さんと添い遂げたいのです……霞さんじゃないと嫌です……」


 気付いたらわたしの目からは涙が溢れていた。
 わたしの一体何がダメだったんだろう……きっとわたしのキスが下手だったから……? いや、でも霞さんはそんなことで嫌いになるような人じゃ……


 だったらどうして……?


「……すまない、しばらく距離を置かないか……?」




 霞さんの言葉でわたしは思考停止する。
 しばらく距離を置く……? どうして? 距離を置くって事は近付いちゃいけないってことだよね? しばらくっていつまで?


 どうしてこんな事になってしまったの……?


「どうしてですか……」
「それを考える時間が欲しい……自分がどうしたいのか分からないままなど自分が許せぬ。今までこんなに人を想った事はなかった。このままだと詩音に申し訳なく思う……だから」



 そんな……わたしと破談する理由を考えるために距離を置くなんて……そんなの絶対に頷きたくない。納得なんてしたくない。




「元はといえば、俺から申し込んだ婚約だというのに……本当にすまない。……いや、謝っても許されることではないと分かっている……だが、自分の気持ちを整理する時間が欲しい。……頼む」



 霞さんは深々とわたしに頭を下げた。
 本気なんだ……こんなに誠意をもって頭を下げられたことは今までに一度もなかった。霞さんの決意は固い……


「……わかりました、大丈夫です!」



 本当は全然大丈夫じゃない。
 少しでも気を緩めたら涙が溢れ出て止まらないと思うし、今すぐ泣き叫びたくて仕方がない。


 でも、これ以上霞さんに嫌われたくない……



 わたし……いつから霞さんに好かれる方法じゃなくて、嫌われない方法を考えるようになったんだろう……

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