触れたい指先、触れられない心
「とにかく、その女で……よいな? これ以上は待てぬ」
「……」
わたしでって……一体どういうこと? だけどここで目を開くわけにもいかない、流されるままにしてればいいと思ってたけど……そういう訳でもないよね、絶対。
バタンという音と共に扉は閉まり、再び鍵をかけられてしまった。
その瞬間、わたしは目を開き、霞さんに詰め寄る。
「一体どういうことですか! あのおじいさんは? それにわたしでいいって一体……それに……!」
「……いったん落ち着け。ちゃんと説明する」
霞さんはわたしの肩を掴んで距離をとった。
「まず、ここに連れてこられた理由だが……俺は家を継ぐ者として婚約を急げと言われていた。そして昨夜あのバーで一緒にいるところを父に見つかってしまった」
「……え、わたしとって……霞さんが私と結婚させられるって事ですか?!」
「父の言い分はそうだ。……事実、婚約する気になるまでここから出してもらえないようだ」
何その家……婚約しないと監禁って……
ってか、昨日わたしがウザ絡みしたせいで、勘違いされて霞さんがこんな目に合ってるってことだよね?
全部わたしのせいじゃん……
「その、結婚すれば……ここから出してもらえるって事ですか?」
わたしの問いかけに、一瞬だけ霞さんの視線が揺らぐ。
「ああ、そうだが」
「なら、霞さん。……わたしと婚約しましょう!!」
その一言で、霞さんはさらに眉をひそめた。