触れたい指先、触れられない心


「あ、あのっ……一体どうしてここに……」
「今日は君にお願いがあって来たんじゃ」


 お願い……? もしかして、霞さんと別れてくれって……?
 い、いや、でも霞さんとの婚約は最初に許してもらえたはず……それなら一体何……?

「詩音、大丈夫か……?」
「うん、マコ……ごめん、行ってくるね」
「ああ……気をつけろよな?」

 マコに見送られながら車に近づくと、運転手が車のドアを開けてくれた。
 霞さんのお父さんの横に腰掛けると、さっそく霞さんのお父さんは話を切り出した。

「聞いたぞ、距離を置いているそうだな」
「はい……すみません、わたしが未熟なせいです」


 霞さんのお父さんはため息をついて黙り込んだ。
 そして、どちらからも特に話を始めることなく、車はある場所で突如止まった。


 嫌な感じがする、ってか……ここ、知ってる……

 わたしと霞さんが監禁された廃墟……だよね?


 どうしてこんなところに……?


 …………ッ!?


「霞さんがここに……ッ?!」


 なんで、なんでまた……

「フッ……ほら、息子が待っておる。早く来るのだ」


 霞さんのお父さんはわたしの声なんて無視して歩き出した。

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