触れたい指先、触れられない心

「あの、どうして霞さんをまた閉じ込めたりしたんですか?!」
「関係のないことだ、必要だから仕方なくしているだけじゃ」

 必要だからって……そんな……そんなこと……


 そして乱暴に開かれた扉。

 扉のそばに、手と足を縄で縛られた霞さんが倒れこんでいた。


 顔にぶたれたような擦り傷があり、綺麗な髪は乱れ、光を失っている。
 久しぶりにみた霞さんの姿が、わたしの想像していたものと違いすぎて涙が溢れてきた。


 どうして霞さんはこんなことをされてるの……? こんな何もない暗いところに独りで閉じ込められて……



「おい、連れて来たぞ」


 霞さんのお父さんの声に反応して、霞さんはうなされるようにゆっくりと目を開いた。

 霞さんはわたしがいることに気付くなり、驚いたように目を見開いた。

「……っ?! ……何故ここに」
「儂が連れて来たのじゃ」
「詩音を巻き込むなと言ったはずだが?! 何故……何故詩音を……」

 霞さんはお父さんを強く睨みつけた。
 霞さんはわたしが来ることを知らなかった……?


「……お主らは距離を置いているそうじゃな?」

 霞さんのお父さんは、わたしの方を向き直して問いかけてきた。

「え……はい……」
「それでは約束に反する。今すぐ結婚するか婚約破棄するか選ぶのじゃ」


 今……? 結婚するか婚約破棄するか……?
 きっと霞さんはこんな状況だったわけだし、まだ自分の気持ちが整理できてないに決まってる。それに……霞さんは婚約破棄を選ぶ。


 でも……そんなのやだ……こんなにすぐに決めないといけないの?
 わたしだって気持ちの整理ついてないのに……


「決められぬと言うのか?」
「……ッ、無理です……」
「詩音、此奴の言う事など聞かなくて良い……!」

 そんな……でも決めないと霞さんをこのままにする……って言われてしまいそうな気が何となくする。
 いや、確信してる。


 霞さんを見過ごすことはできない。それに、霞さんの気持ちを尊重したい……


 だったらわたしの気持ちなんて捨てて……



 
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