触れたい指先、触れられない心


 もうダメだ……ずっと抑えてたのに……
 泣かないようにって……我慢してたのに……


「わたしも……ッ、霞さんとずっと一緒に居たいです……、だから、距離を置こうって言われて、ずっと破断されるんじゃないかって思っていました。幸せな時間を終わりにされるのが……どうしようもなく怖かった……っ!!」


「すまない……もう二度と、詩音を悲しませないと誓う」
「わたしも、霞さんを幸せにできるように頑張ります……!」
「俺はもう、既に幸せだ。俺から距離を置こうと頼んだのに……ずっと会いたかった」


 霞さんも、わたしと同じだった……

 今でもその事実は信じられない、まるで夢みたい……
 だけど、目の前で声を震わせながら、顔を真っ赤にして……ぎこちなく言葉を発する霞さんを見たら……これは夢じゃないんだって分からせられた。


 こんな霞さんは初めて見た。
 いつどんな時だって霞さんは強く凛々しく、些細なことでは表情をまったく変えなかった。

 それが今は……こんなに必死に、わたしに思いを伝えるために、考えて考えて言葉を紡いでくれている。


 嬉しくてたまらなかった。
 霞さんの言葉は全部本当で、不安がることも疑うこともしなくていい……全部わたしのずっと夢見ていた二人の姿が叶ったんだ。



「霞さん……あの……」



 でも、どうしてだろう……
 今まであんなに好きって簡単に言えていたのに……


 たったの二文字だけなのに


 どうして口から出てこないんだろう……





「好きだ……詩音」



 霞さんの優しい声が耳元で聞こえた。
 

 これは……夢じゃないんだ……


 霞さんがわたしを好きだと言ってくれる……


「わ、わたしも……好き……です」


 こんなに好きって伝えるのが難しいって初めて知った。
 霞さんに出会って、本気で好きになって……わたしは変われたんだ……


< 79 / 84 >

この作品をシェア

pagetop