触れたい指先、触れられない心

「あ……霞さん、車が……」


 廃墟を出ると、いつもの車が止まっていた。
 

 そういえば……初めてここを出たとき……わたしは生まれて初めて号泣した。
 酷い虚無感に心が蝕まれて、でも言葉にできない、留めておかなきゃいけなくて、それがどうしようもなくもどかしくて辛かった。

 それが今では……大切な人と……大好きな人と手をつないで一緒にいる。



「ご伝言を預かっております」



 車に乗るなり、運転手は話を切り出した。

 伝言……霞さんのお父さんから……?


「明日の夜、正式な婚約披露パーティを開催するとのことです」
「……明日の夜? 何故そんなに急なのだ」
「善は急げと仰っていました。そして、もう手配は済んでいるそうです」


 婚約披露パーティ?! わたしと霞さんの……?
 ってか、パーティなんて出たことないし、ましてや主役なんて……無理だよ……


 そうだ、ドレスとか着物も持ってないし……何着ていけばいいの?!
 でも……パーティって事は、おいしい食べ物沢山あって、キラキラしてて……楽しそう……


 ……じゃなくて! どうにかして断らなきゃ!

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