碧花の結晶
打明
「済まない。 少し手間取ってしまった。」
マドロス親子が待つバルコニーに出る。
さすがに待たせすぎてしまったと思い、 少し恐る恐る扉を開けたのだが、どうやら杞憂だったようだ。
「ああ、もうそんなに時間が過ぎていたのですか。
お気になさらないでください。
私共も、会話が弾んでしまいまして…」
「ええ…久しぶりに父と良く話せましたし。
こんなことをルーシェ様に言うのはおかしいような気がしますけど、 むしろお礼を言いたい気分です。」
少しほっとした。
多少の気遣いはあるだろうが、少なくとも彼らが不快感を感じることは無かったようだ。
「それは願ってもない。
さぁ、そろそろ昼食にしよう。」
そう言うと、 数人のメイドがやってきて料理を並べだす。
中庭といえ屋外での食事なので、 食べやすい物を出すように命じていた。
よって、 プレートにはサンドイッチなどの食べ物が置かれている。
サンドイッチには、トロトロに煮込んだ豚肉、新鮮な野菜、特製のソースなど様々な具材が挟み込まれており、満足感がたっぷりだ。
しばらく、雑談を交えての会食が続いた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「して、 ラルム殿はどのようなご要件で?」
〝ラルム〟は、ラルクの父親の名前だ。
貴族にも、 王のように様々な仕事がある。
無要件ではわざわざ王宮へ会食に来ようなどとは考えないことは明らかだった。
「いえ…実は、息子にルーシェ様を会わせておきたかったのです。
ここだけの話、 私はそろそろ隠居しようと思っていまして…同じ歳の殿下と直接話して欲しかったのです。
こんな私事で申し訳ありません。
ルーシェ様の貴重なお時間を…」
「いや、 構わない。
俺も同い歳の者と会う機会はあまりないから、 楽しませてもらっている。」
同い歳の人とは毎日のようにあっているけど。
そんなことを言う訳にもいかないしね。
「それより、 ご隠居…ということは、 当主はラルク殿になるということか。」
「ええ、はい。」
ラルクを横目で見ると、 超動揺していた。
さっきから水を何度も飲んでいる。
(…………ちょ、ちょっと……
吹きそう…w
その面白い顔をやめて!)
いつも冷静だから、 余計面白くて笑いを堪えるのに必死になってしまう。
その様子から、 「隠居」という言葉は今初めて聞いたのだろう。 全く、イタズラ好きな父親だな。
「ち、父上…隠居というのは本当ですか。」
「本当だぞ。
お前には知らせていなかったが、 周りにはもう結構知らせておる。」
「わ、私に務まるのでしょうか…」
「大丈夫だ!
お前と同い歳の殿下でさえ、 国家を背負ってらっしゃるのだ。
それにお前も、 日々私の公務を手伝っているだろう?」
ラルムはそう言っているが、 やはりラルクの不安は消しされないようだった。
会食が終わるまで、 ラルクは始終落ち着かないでいた。