歳の差18

第5章 再会

次の日も仕事が終わってすぐにおーちゃんの家へと向かった。

今日も帰って来なかったら・・・諦めよう。

今の私にできることは、この家の前でおーちゃんの帰りを待つことだけ。

苦しいよ・・・。

付き合ってた時みたいに笑顔で帰ってきてよ。

時間が過ぎ20時を回ったころ、背後から聞き覚えのある声が耳に入った。

「優子・・・?」

私は振り返る。

「おーちゃん・・・」

私はおーちゃんの顔を見た瞬間、涙が溢れた。

おーちゃんちゃんと生きてる。本当に良かった。

「おい!優子、どうしたんだよ。とりあえず中に入ろう」

私は久しぶりにおーちゃんの家に上がり、ソファーに腰かけた。

「久しぶりだな~このお家。いきなり来ちゃってごめんね。連絡が取れなかったからさ」

「連絡してくれたのか?」

「うん。携帯替えたんだね」

「ちょっと前に、仕事先で水没させちゃって新規で替えたんだ。電話帳とかも全て分からなくなちゃってさ」

「そうだったんだ。てっきり、私と連絡とりたくないから替えたのかと思ってたよ」

「そんな訳ないだろ。時が経ったら優子に連絡しようと思ってたよ。で、今日はどうしたんだよ」

「うん、話があって・・・。一昨日も昨日も待ってたんだけど、帰って来ないから本当に心配してた。でも今日会えて安心した」

「まじか・・・。それは悪かった。待たせてごめんな」

「ううん。勝手に待ってただけだから」

私は話を続ける。

「私たちがさ、別れ話してた時「弄んだ」なんて言ってごめんね・・・。おーちゃんはわがままな私に凄く良くしてくれたのにさ。今更許してもらおうとは思ってないけど、感情で酷いこと言っちゃったから謝らないと気が済まなかったの。ずっと罪悪感感じてた・・・」

「そんなことを言いにわざわざ3日間も待っててくれたのか?」

「そんなことじゃないよ。凄く大事なことだよ」

「優子が謝るようなことは何一つないよ。俺が一方的に優子から離れようとして、そう思われて当然のことだよ。謝らなきゃいけないのは俺の方だよ。ごめんな・・・。あの時にちゃんと謝ろうと思ったけど、優子の悲しそうな顔を見たらどうしても謝れなかった。ここで謝ったらもっと優子を傷付けると思ったから」

「そうだったんだ・・・。なんであの時私に本当のことを話してくれなかったの?おーちゃんの過去の事知ってたら私写真ことなにも言わなかったのに」

「・・・なんのこと?」

おーちゃんはまだごまかそうとしている。

「話すのは辛かったと思うけど、彼女であった私には話してほしかったよ。支えてあげたかったのに・・・私には話す必要がないと思ったの?子供の私じゃ理解できないと思った?」

「そんなんじゃないよ。その話誰から聞いたの?」

「総菜に挨拶に行ったときに聞いた」

おーちゃんはかなしそうな顔を見せた。

でもこのままなにも聞かずに帰ったら、3日間も待っていた意味がない。

あれからずっとおーちゃんの本当の思いを聞いてなかったから。

「そっか・・・じゃ、遅くなったけど全て話すよ。長くなるけど時間は大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。話して」

「でも、話を聞いたらまた優子に辛い思いをさせちゃうかもしれない・・・」

「もう私たち別れてるじゃない(笑)だから今は何を聞いても平気だから気にしないで話して」

おーちゃんは頷いてゆっくり話し始めた。

「昨日は里香の命日だったんだ。一昨日から里香の実家に泊まらせてもらって、昨日お墓参りに行ってきた。こんなこと優子の前で話すのも気が引けるけど・・・俺は本当にあいつを愛してた。何年経ってもなかなか子供ができなくて病院に行ったんだよ。そしたら俺の方に原因があって不妊症だと言われた。子供ができない訳ではなくてできにくいだけで、治療を続ければ大丈夫!って言われてたけど、仕事を優先にして妊活を後回しにしてた。里香をもっと気遣うべきだったのに、一番大事なことに気付かないでその生活が当たり前になってた。それからも時だけが過ぎて、すれ違いが続いてた。里香はこんな俺に愛想を尽かして離婚届を残して家を出て行ったんだよ。悲しかったけど、話し合いをする余裕さえ里香にはなかったから、出て行ったときはしょうがないと思った。俺なんかといても里香が不幸になるだけだと思ったから引き止めもしなかった。でも・・・俺があの時「出ていくな」って止めてたら、あいつは死なずに済んだんだ・・・。あの日、あいつはこの家を出て・・・」

おーちゃんは一粒の涙を流し黙り込んだ。

私は何も言わずおーちゃんの背中をさすった。

しばらく経っておーちゃんは話を続ける。

「あいつはこの家を出て、実家に帰らずそのまま飛び降り自殺したんだ・・・」

私はさすっていた手を止めた。

「待って・・・交通事故じゃないの・・・?」

「パートさんに会話の流れで「元嫁さんとはいまだに連絡取り合ってるの?」って質問されたから、「交通事故で亡くなった」と話したんだ」

「そんな・・・」

「離婚を決めたその日にこんなことになるなんて・・・信じられなかったよ。俺は生きてる資格がないと思って自殺未遂をしたんだ。だけど俺には死ねなかった。死ぬ勇気がなかった。それ程までに里香を苦しめていたんだとその時初めて実感したんだよ。その日から自分を責め続けて、気が休まることなんてなかった。俺は幸せになっちゃいけない人間だから、もう一生恋はしないと決めてたんだ。恋をしたら里香が悲しむと思ったから。俺は里香を忘れちゃいけない、これからも里香だけを愛する!って、ずっとそうやって自分に言い聞かせて生きてきた。それからあっという間に2年が経って、優子が新入社員として入ってきた。俺は驚いたよ!優子を目にした瞬間、俺と里香が出会った時の里香が戻ってきたと。似てたんだよ!顔も仕草も・・・。本当にごめんな。こんな理由で優子に近付いたんだ。だから総菜部の作業場にも何度も顔を出した。優子が俺と付き合ってくれた時は言葉に表せないくらい嬉しかった。また里香と一緒にいれるんだ。戻ってきてくれてありがとう・・・。そう思った。死んだ人間と優子を重ね合わせてた・・・俺は本当に最低な人間だ。優子を俺の都合で利用して、結局は俺から別れを告げた。優子までも傷付けた。優子がこうやって来てくれてなかったら俺はずっと黙っていたかもしれない。俺は女一人も幸せにできない最低で卑怯者なんだ。だから俺は人を愛しちゃいけない。この話を聞いて俺を軽蔑するよな・・・。今更で許してもらえないだろうけど、苦しめて傷付けて本当にごめん」

私が里香さんに似ていたから、初めて私を見たときおーちゃんは驚いた顔をしていたんだね。

「辛いのに全て話してくれてありがとう。私ね、おーちゃんと別れ話した後体調を崩しちゃって実家に帰ってからもしばらく治らなくて、まさか・・・と思ってさ、検査薬使ったら陽性反応が出たの」

私の話を遮るようにおーちゃんが反応する。

「なに?妊娠してるの?」

「最後まで話聞いて(笑)」

「う、うん。ごめん」

「それでね、その結果を見たときはおーちゃんに伝えたかったけど、反対するって思ったから言わなかった。でもね、たまたまタイミングで私が検査薬使ったから反応が出ちゃっただけで結果的には妊娠してなかったんだけどね(笑)」

「ごめんな、苦しかったよな・・・」

「謝らないで!私はどんな理由だろうと、10ヶ月と短い間だったけどおーちゃんといれて幸せだったよ。それにおーちゃんが死んでたら私たち出会ってなかったわけだし。好きな人を軽蔑するわけないじゃん。写真のことは本当にごめんね・・・私の顔見るの辛いよね・・・」

「辛くないよ!優子は優子なんだもんな。ただ申し訳ないだけ。優子が里香に似ていたから好きになったなんて優子が知ったら傷付いてただろう?だから優子が写真を見付けたときは正直に話せなかった。優子の悲しむ顔を見たくなかったから。だからと言って写真を捨てることなんてできなかった。あの時は別れしかないと思ったんだ。本当は俺優子から逃げてたんだよね。俺はどうしようもない弱い人間だよ。いつまでも里香の死を受け入れられないで現実から逃げてる」

「そんなことない。少しずつ自分のペースで現実をみていけばいいじゃん。おーちゃんは強い人間だから絶対にできる。たとえ私自身を好きになったんじゃなかったとしても、付き合ってた間は私に好きって言ってくれてたじゃん。その言葉に偽りは感じなかったよ。それだけで私本当に十分だよ」

「ありがとう。優子に本当のこと話せて気持ちが落ち着いたよ。こんな俺を許してくれてありがとな。俺は優子自身を好きになろうと努力した。でもそれは自分勝手に過ぎなかったんだよな。付き合った本当の理由を隠し通してまで幸せになっちゃいけないと思ったから」

「そこまで考えてたんだ。上から目線になっちゃうけどやっぱりおーちゃんは立派な大人だね。これからはもう自分を責めないで、素敵な人と出会って幸せになってね。里香さんの為にもおーちゃんが幸せにならないと。里香さん以外の人と幸せになったら、里香さんを忘れたことになるって思ってるなら、それは違うと思うよ。分かったようなこと言ってごめんね。でもおーちゃんの背中押してあげたいから。私に今でも悪いと思ってるなら、私の最後のお願い聞いてくれるよね?」

「優子に背中を押してもらうなんて俺本当に情けないな。優子は俺より何倍も大人だよ。優子と出会ったことは決して忘れないから。優子も俺より素敵な人見付けてな。一生大事にしてくれそうな人と結婚して、絶対に幸せになれよ。優子ならきっと必ず最高の相手に巡り合えると思うから。俺が保証する。幸せになるって約束してくれるよな?」

「うん、もちろんだよ。おーちゃんより素敵な人と幸せになるよ(笑)」

「そうしてくれなきゃ俺の罪悪感は消えないから・・・。結婚式にはもちろん呼んでくれるよな?(笑)」

「だめだよ!おーちゃんよりいい男だったらやきもち妬いちゃうでしょう?(笑)」

「そうかもな。なら陰ながらに応援してるよ」

「うん。そうして」

こうしてこの日、私たちは本当のさようならをした。

おーちゃんとまたたわいない会話ができて良かった。

私は今も幸せだよ。

このまま何も話し合えないで終わっちゃうんじゃないかと思ってたから。

今日ちゃんとお別れができて良かった。

おーちゃんと付き合ったことは後悔してない。

だっておーちゃんを好きになって、初めて本当の愛を知った気がするから。

感謝してるんだよ。

おーちゃんは、私と里香さんを重ね合わせてたって言ってけど、それを聞いて全く嫌な気持にならなかった。

むしろ私が似ていて良かったと思ってしまった。

私も写真で里香さん見たけど、自分と似ているなんて全く思わなかった。

だって里香さん誰が見ても本当に綺麗な人だったから。

そんな人に私が似ているだなんておーちゃんに言われたら嬉しいに決まってる。

里香さんはこんなに愛されて幸せな人だね。

きっと最高の人だったんだろうな。

今思えば、あの写真を見たときおーちゃんが本当のことを話してくれていたとしても、きっと私にはおーちゃんを支えていくことは出来なかっただろう・・・

だって私と里香さんは全くの別人なんだもん。

そんな私をずっと里香さんと重ね合わせてたら、おーちゃんがダメになっていたかもしれないしね。

写真が私たちの運命を教えてくれたんだね。

私とおーちゃんは一緒にはいられない、なっちゃいけない。

これが私たちの運命なんだよ。

でもね、そんなおーちゃんと10ヶ月という短い付き合いだったけど、短い期間だったからこそ嫌な部分を見ずに好きなところだけ感じることができたんだよね。

出会えたこと、今では奇跡だったと思えるよ。

おーちゃんともう一生一緒にはなれないと思うと、「辛くない」って言うと嘘になる。

でも、私もちゃんと理解しなきゃ。

もう子供じゃないから。

私は大丈夫!

おーちゃんと真剣に向き合えたから。

辛いというより、応援したい。

おーちゃんには本当に幸せになってもらいたい。

今はそれしか願ってないよ。

約束したから大丈夫だよね。

私の中で、あなたと過ごした10ヶ月間は絶対に忘れることはありません。

最高の思い出としてずっと心に残しておきます。

おーちゃんと約束したから私も絶対幸せになるから心配しないでね。

本当の幸せをありがとう。
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