桃の華〜溺愛イケメン社長〜
椅子から立ち上がった桃田さんが、フラついてしゃがみこんだ。

「だ、大丈夫ですか?」

近くに駆け寄ると、顔が真っ青になっている。

「ただの立ちくらみだから大丈夫」

「椅子に座りましょう」

桃田さんの腕を掴み、さっきまで座っていた椅子に座らせた。

「ハッ…ごめんね、華ちゃん。フゥ…食事はまた今度にしよう。秘書に送らせるよ」

「私なら大丈夫です!それより桃田さんが…」

「俺は大丈夫だから…ハァ…ハァ…」

吐息まじりでそう言うけれど、大丈夫な様には見えないよ。

桃田さんはデスクの上にある電話でマキノさんを呼んだ。

「社長、どうされました!?」
すぐにマキノさんがやって来た。

「ただの立ちくらみだから騒がなくていい」

「とりあえず、ソファで横になって下さい」

桃田さんはマキノさんに支えられソファに横になった。

そしてマキノさんは濡れたタオルを持ってきて、そのタオルを桃田さんの額に置く。

桃田さんのネクタイも緩めて、オドオドしてた私とは大違いだ。

「悪いが、華ちゃんを送ってくれないか?」

「わ、私、桃田さんが落ち着くまでいますっ!」

何も出来ないけど、桃田さんをそのままにして帰れないよ。

「華ちゃん、ごめん。帰って」

「…はい。お大事にしてください」
そう言って、私は社長室を出た。

ショックだった。
桃田さんが体調が悪い時に、そばにいて欲しいのは私じゃないんだ。

そりゃそうだよね。
仕事をしていた桃田さんを1時間も見ていたのに体調が悪いことに気づかなかったんだし。

それだけじゃなく、マキノさんみたいに桃田さんを的確に看病すらできなかった。


エレベーターが来るのを待っていると、マキノさんがやって来た。

「下でタクシー拾いますね」

「私なら大丈夫なので、桃田さんについてあげて下さい」

自分の大好きな人を他の人にお願いするなんて、本当に情けないよね。

だけど、私は桃田さんに必要にされていない。

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