桃の華〜溺愛イケメン社長〜
「今、コーヒーを入れに行かれてます」

「だったらすぐ戻るわね」

女の人は私の前のソファに細長い綺麗な脚を組んで座った。

すごく綺麗な人だな。
女の人がサングラスを外すと、すぐに誰だかわかった。

「あ、アヤミン、さん?」

女優の夏木アヤミさんだ!
“アヤミン”ってニックネームで呼ばれていて、すごく人気の女優さんだ。


「華ちゃん、お待たせ」

目の前にいる生の有名人に驚いていると桃田さんが戻ってきた!

「アヤミ?」

桃田さんはガシャんと音をたてながら、すこし乱暴にコーヒーをテーブルに置いた。

桃田さん、アヤミンさんのこと名前で呼ぶんだ。
それも、呼び捨てだし。

私には“華ちゃん”なのに。

「律!久しぶり、会いたかった!」

そう言って、アヤミンさんは桃田さんに抱きついたけど、桃田さんはすぐに体を離した。

「やめろよ!アポもなく何しにきたんだ?」

私に話す時と違い、桃田さんの声は凄く低くて怖い。

「何って、律に会いに来たに決まってるじゃない!先週まで映画の撮影で海外だったのよ」

「今、大切な人との大切な時間なんだ!邪魔するな」

こんな乱暴な言い方をしている桃田さんは初めてだよ。

「大切な人って、このガキのこと?」

テレビで見るアヤミンさんと違いすぎて、アヤミンさんにも驚かせられる。

「彼女はガキじゃないけどな」

「趣味悪くなったのね!CMの契約、延長をお願いね」
アヤミンさんはそう言って出て行った。

私は何が起こったのか把握しきれずにいる。

「華ちゃん、ごめんね」
そう言ってくれる桃田さんの声は、いつもの優しい声に戻っていた。

私の横に腰を下ろした桃田さんは、入れてきてくれたコーヒーに砂糖とミルクを入れてくれる。

そして、それを私の前に置いてくれた。

「ありがとうございます」

「華ちゃんに嫌な思いさせたね、本当にごめん」

「いえ、ガキって言うのは本当のことですし」

私なんかが桃田さんの彼女だなんて誰だって似合わないって思うよね。

アヤミンさんはみたいに綺麗で人気者の女優さんなら、桃田さんの横にいても恥ずかしくないんだろうな。
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