桃の華〜溺愛イケメン社長〜
ホテルの部屋に案内されると、バスローブ姿のアヤミンさんがいた。

「何、その口紅!似合ってないわよ」

いきなりアヤミンさんにそう言われ、口紅を隠すように手で口を覆った。

「律にあなたも似合っていない!別れてくれない?」

「え?」

睨むように私を見て、そう言うアヤミンさんのオーラに押しつぶされてしまいそう。

「あなたより私の方が律に似合うと思わない?」

「…思います」

2人が車に乗って私の目の前を通った時、すごくお似合いだと思った。

私も綺麗になってアヤミンさんみたいに桃田さんに似合う女性になりたいとも思った。

「だったら別れてくれるわよね?二股とかだと世間にバレたらイメージが悪いし、律の周りをウロつかないでほしいの」

桃田さんと別れる?
そんなこと、考えた事もなかったけど。

「い、嫌です」

桃田さんと別れるなんて考えられない。
別れたくない。

もしも、桃田さんがアヤミンさんの事を好きになったなら、私もまた好きになってもらえるように頑張る。

何もしないで簡単に諦められるほど、桃田さんへの思いは軽いものじゃない。

「そうよね。律みたいにお金もあって、顔もよくてこんな高いスペックの男と誰だって別れたくないわよね」

私は桃田さんのこと、スペックやお金で好きになったわけじゃない。

たまたまドキドキして、胸が高鳴って、好きになった人が桃田さんだっただけ。

「高いスペックだから別れたくないんじゃありません。私は桃田さんが好きだから別れたくないです」

どうしよう…こんなこと言ったけど、震えが止まらない。

「それなら、仕方ないわね」

納得してくれたのかもと安心しかけた私に、アヤミンさんは写真を見せてきた。

その写真には、私と桃田さんが会社の前で抱き合っている姿が写っていた。

「それ、マスコミに流すって言えば別れる気になってくれる?」

「え?」

「有名な社長が女子高生と抱き合ってる写真なんか出回ったら一貫の終わりだと思うわ。世間は二股とか青少年保護育成条例違反だとか騒ぎ立てるだろうし、会社の株価は下がり社長は解任、下手すれば犯罪者になるかもね」

少し前に、芸能人が未成年と飲酒をしたとかで大問題になっていたニュースを思い出した。

私は飲酒をしていないけど、この写真が出回ってしまったら、大人の桃田さんが不利になることくらいはわかる。

この人が言う通り、桃田さんに悪評がたてば社長の立場だって危うくなるんだ。



「……別れます」

私にはこの道しか選ぶ道はないと思った。

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