桃の華〜溺愛イケメン社長〜
「全種類を配るのは無理だけど、ゲストに選んでもらえるようにするよ」

それならゲストも喜んでくれるかも。
みんな同じものにしたら好みもあるし、喜ぶ人とそうじゃない人もいると思う。

「一二三さんのスタッフには少し迷惑をかけるかもしれないけど、お願いできますか?」

「うちは大丈夫です。喜んでお受けいたします」

こうして、イベントではゲストに和菓子を選んでもらうこととなった。

私の意見を聞き、桃田さんが決めて、物事が動く。
なんだか、とてつもなくすごいことなんじゃないかなって思う。

それからも桃田さんと店長は何度か打ち合わせをして、イベントの前日を迎えた。

「和泉さん、明日があるから今日はもう上がってくれていいよ」

そう言われ、いつもより早く上がらせてもらうことになりお店を出た。

明日のイベントってどんな感じなんだろう。
IT会社のイベントなんて想像もつかないよ。

そんなことを考えながら歩いていると、何か探し物をしているようなお婆さんがいた。

どうしたんだろう?
何か落としてしまったのかな。

「大丈夫ですか?」

お婆さんに声をかけると、お婆さんは困り果てた顔を見せた。

「何か探してるんですか?」

「財布を落としてしまったみたいなの。そこでバスを降りた時にはあったのよ」

「どんな財布ですか?私も一緒に探します」

お婆さんに財布の特徴を聞き、一緒に探し始めた。

「ありがとう。見つからないわね」

しばらく探しても見つからなくて、お婆さんは諦めようとしている。

「誰かに拾われたかもしれないわ。お金はそんなに入っていないんだけど、亡くなった主人の写真が入ってたから残念だけど諦めるわ」

お婆さんの話を聞いて、自分のおばあちゃんのことを思い出した。

おばあちゃんもいつもおじいちゃんの遺影写真に向かって話しかけている。

このお婆さんも私のおばあちゃんと一緒なんじゃないかな。
その写真はただの写真じゃなくて、亡くなったお爺さんなんだよ。
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