あの日の青に、君だけがいない
「空ってさ、吸い込まれるっていうより落ちるっていう方が合ってると思わない?」


「何それ」


「こうやって地面に体を沈めて空見てると、あの青に体が落ちていくような気分になるの」


そんなことを呟きながら熱い息を鎮めて空に手をかざした。


隙間から指を透かす空は青。


背中にあたる、少し冷たい芝生は萌黄。


履き慣れたランニングシューズは赤。


産毛を攫う柔らかな風が火照った体に気持ちいい。


「ふーん、お前にもそういう情緒を感じる心があるんだな」


「なにおう、失礼な」


「褒めてやってるんだよ」


隣で同じように寝転がって空を仰ぐ柚はししし、と笑った。


顔をくしゃくしゃにして、目を糸みたいに細くして、笑った。


何度も見てきたくせに少しばかり懐かしいその笑顔は、きっと太陽の色に似ている。
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