からふる。~第7話~
「そっか。玲央に突然キスされたんだ...」


「なんか悔しくて悲しくて泣いちゃったんです。昔のことも涙と共に溢れてきちゃったりして...辛かったです」



しゅうくんが麦茶を用意してくれ、私達は端っこの席に並んで座っていた。


真剣な眼差しで私の話を聞いてくれるから私は次第に心が温かくなり、涙も消えていった。



「昔のこと?」


「白鳥先輩と黄海くんにはお話ししたのですが、私は元お嬢様なんです。父が病院を経営していたのですが倒産してしまい、すべてを失いました。高校は中退、両親と別れて暮らすことになり、大好きだった家政婦さんも去っていきました。1人でなんとかやっていくしかなくなり、そこで見つけたのがここのバイトなんです」


「辛い思いたくさんしたんだね...」


「泣きたくても泣かないように頑張ってました。泣いてしまったら前を向けないような気がして...」


「さーやちゃん、泣きたい時は泣けばいい。オレが全部受け止める」


「ありがとう...ございます...」



また頭を撫でられ私は照れながらも嬉しかった。


優しくされるのに不慣れだからかもしれない。


ここ半年は本当に針のむしろにいたから。


心が痛くて、辛くて、苦しくて泣きたくても泣けなくて。


やっと光が差し込んできたみたい。


この光をずっと浴びていたい。



「敬語もお嬢様の名残?」


「あっ...ごめんなさい。じゃなくて、ごめん」


「いいよ。気にしないで。言葉遣いがきれいな人、オレ好きだから」



好き......。


いやいや、違う違う。


言葉遣いがきれいな人全員に対して言ったんだ。


私だけに言ったんじゃないんだからそんなに意識しちゃダメ。



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