桜田課長の秘密
シジミの皮を被った
* * *
「無骨な指が肌をかすめると、カナコの体は電流に貫かれたように跳ねた。火照った顔を埋めようと波打つシーツを手繰り寄せた刹那。隠すな、と低い声に拘束される。奪われたい、征服されたい。心も体も何もかも忘れ――」
「はい。もう、結構です」
室内に響く冷めきった声。
淫猥にゆるんでいた空気がピリリと張り詰めた。
はあ、またか――。
「今度はなにがお気に召さなかったのでしょう」
つとめて冷静に質問すると、時代遅れな黒縁メガネ。分厚いレンズの奥から極小の目に睨まれる。
「艶のない声、色気のない表情、エロティシズムの欠片もない抑揚。全てが気に入りませんね」
「うら若き乙女に官能小説の朗読をさせるなんて、じゅうぶんエロティックだと思うのですが」
「うら……若き?」
「なにか」
「図々しいにもほどがある」
ブチンーー。
ああ、知らなかった。堪忍袋の緒が切れるときって、本当に音がするんだ。
「無骨な指が肌をかすめると、カナコの体は電流に貫かれたように跳ねた。火照った顔を埋めようと波打つシーツを手繰り寄せた刹那。隠すな、と低い声に拘束される。奪われたい、征服されたい。心も体も何もかも忘れ――」
「はい。もう、結構です」
室内に響く冷めきった声。
淫猥にゆるんでいた空気がピリリと張り詰めた。
はあ、またか――。
「今度はなにがお気に召さなかったのでしょう」
つとめて冷静に質問すると、時代遅れな黒縁メガネ。分厚いレンズの奥から極小の目に睨まれる。
「艶のない声、色気のない表情、エロティシズムの欠片もない抑揚。全てが気に入りませんね」
「うら若き乙女に官能小説の朗読をさせるなんて、じゅうぶんエロティックだと思うのですが」
「うら……若き?」
「なにか」
「図々しいにもほどがある」
ブチンーー。
ああ、知らなかった。堪忍袋の緒が切れるときって、本当に音がするんだ。
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