桜田課長の秘密
さらば平穏な日々
* * *
最寄り駅から徒歩10分ほど。
ビルの谷間に沈み込むようにその家はあった。
周囲には近代的な建物が立ち並んでいる。
にも関わらず、目の前の日本家屋だけはひっそりと、まるで時代にとり残されたようにたたずんでいた。
古めかしい数寄屋門《すきやもん》に圧倒され、震える指で呼び出しボタンを押し込む。
『ピン、ポーン』というレトロな音に心が和んだのもつかの間。
インターフォンから聞こえた『はい』という愛想のない声に、ブルリと震えた。
「あのっ、桜田さんの紹介で参りました、助手希望の江本巴です」
「どうぞお入りください」
「失礼します」
アプローチの先にある玄関扉を開けて、足を踏み入れる。
最初に目に飛び込んできたのは、広々とした土間に鎮座する、御影石の上がり框。
廊下の先から『上がってください』と声がした。
けれども慣れない日本家屋の様式。
靴はこの御影石の上に置くんだろうか、などと戸惑ってしまう。
グズグズと思案していると、痺れを切らしたのか男が姿を現した。
180センチを超えていそうな長身。
しつらえたように体になじんだ海老茶色の作務衣。
ゆっくりと近づいてきたその人は、私の前で立ち止まった。
最寄り駅から徒歩10分ほど。
ビルの谷間に沈み込むようにその家はあった。
周囲には近代的な建物が立ち並んでいる。
にも関わらず、目の前の日本家屋だけはひっそりと、まるで時代にとり残されたようにたたずんでいた。
古めかしい数寄屋門《すきやもん》に圧倒され、震える指で呼び出しボタンを押し込む。
『ピン、ポーン』というレトロな音に心が和んだのもつかの間。
インターフォンから聞こえた『はい』という愛想のない声に、ブルリと震えた。
「あのっ、桜田さんの紹介で参りました、助手希望の江本巴です」
「どうぞお入りください」
「失礼します」
アプローチの先にある玄関扉を開けて、足を踏み入れる。
最初に目に飛び込んできたのは、広々とした土間に鎮座する、御影石の上がり框。
廊下の先から『上がってください』と声がした。
けれども慣れない日本家屋の様式。
靴はこの御影石の上に置くんだろうか、などと戸惑ってしまう。
グズグズと思案していると、痺れを切らしたのか男が姿を現した。
180センチを超えていそうな長身。
しつらえたように体になじんだ海老茶色の作務衣。
ゆっくりと近づいてきたその人は、私の前で立ち止まった。