桜田課長の秘密
「どうかしましたか」
怪訝な声に、ハッと我に返った。
そして同時に覚えた違和感。
なぜだろう……なにかが、引っかかる。
「いえ、すみません」
いや、余計なことを考えている場合じゃなかったんだ。
「あの、急だったので簡単なんですが、これ」
書いたばかりの履歴書を、鞄から取り出す。
「ご丁寧に。とにかくお上がりください」
無表情にそれを受け取った彼に案内された和室は、仕事場だろうか。パソコンや大量の本が置かれている。
勧められるまま、ふかふかの座布団に座った。
座卓をはさんで正面に座った彼は、履歴書を広げ、懐から取り出したメガネをかけ――
………かけ
…………え?
え、えええええっ!?
サラリと額に垂れる前髪のせいで、妙な色気はあるけれど。
この昭和感あふれる野暮ったいメガネ。
その奥で、砂抜き前のシジミほどの大きさになってしまった目。