桜田課長の秘密
「くうっ……」

勝ち誇った眼差しの憎たらしいことったら。

いや、問題はそこではない。
大事なのは、なぜこの男が私を助手として雇い入れたのかだ。

親切心や同情で動く人間じゃない。
それだけは分かっているのだけど……

「なにを企んでいるんですか」

「心外ですね。規則違反を見逃すだけでなく、新たな仕事まで提供しているというのに」

メガネの奥の目がニイー、と細められた。

おかしい……
目の前にいるのは、あの冴えないシジミだというのに。
節くれだった男らしい手が、濡れた髪をかき上げ。
その仕草に正体不明の疼きが全身を駆け巡った。

これ以上、この男にかかわるな――

本能がそう警告する。

「――帰ります」

立ち上がりかけた体が、ぐらりと傾いた。
そうさせたのは、私の手首を引いた大きな手。

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