桜田課長の秘密
全体的に熱量の低い人だと思っていた。
けれど手首に巻きついた指は、驚くほど熱い。

「ここで逃げたら、すべてを失いますよ」

脅迫じみた口調に動きを封じられ、せめてもの抵抗として背筋を伸ばした。

「どういう意味ですか?」

「言わずもがな……お分かりでしょう」

人を追い詰めるプロ。
リストラ課の鬼の手中にハマってしまった私に、逃げ場はないんだろうか。

会社をクビになれば、きっと派遣会社からも見捨てられる。
キャバクラの仕事だってそう。
今年30歳になる私が、今後ホステスとして跳ねるのは難しい。

いや、未来のことよりも〝今〟だ。
このままでは、さらに借金を重ねるしかない。

けれど、そんなことをしたらどうなるか。
それが分からないほど馬鹿じゃない。

「僕の助手をする以外に、方法がありますか」

残念ながら、答えはNOだ。
それでも私を躊躇させるなにかが、この男にはあった。

「……っ!」

掴まれた手首に、さらに強い力が込められる。

「正社員……なりたいんですよねえ」

「……」

つまりはこの仕事を受ければ、悪いようにはしないと――
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