桜田課長の秘密
シジミが狼に変わる夜
* * *

約束の20時きっかり。
滑り込みで到着した私を、課長はやけにスッキリとした顔で迎え入れてくれた。

昨夜は海老茶の作務衣だったが、今日は濃紺の甚兵衛。しっとりと宵闇を溶かしたようなその色は、色白の彼によく似合っている。

悔しいけど、駄々洩れる色気にクラクラした。
ギュと目を閉じて昼間のシジミを思い浮かべる。

ビッチリと額に貼りついた前髪……
肩をすぼめてショボくれた後ろ姿……

ダサメガネ、ここにいるのは冴えないダサメガネなんだ。

そう、心の中で繰り返して目を開く。

「課長、今日からよろしくお願いします」

イケすかない男ではあるけれど、ここでは私の雇い主。
覚悟を決めて、誠心誠意、勤めるつもりだ。

「まずは、お互い仕事がしやすいように、打ち合わせをしましょう」

仕事部屋に通されると、座卓に琉球グラスと緑茶のペットボトルが用意されていた。
お茶を飲んで待っていると、課長が籐のカゴに入った荷物を持ってくる。

「これは、江本さんの仕事着です」

笑顔で取り出されたのは、白いワンピース。
襟元と裾にひかえめなレースがあしらわれただけの、シンプルなデザインだ。

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