桜田課長の秘密
「明日から時間の指定はしませんので、無理のない範囲でお願いします」

今夜の彼はすこぶる機嫌がいい。
昼間と違って、あまりにも紳士的なので拍子抜けしてしまう。

「課長……悪いものでも食べました?」

「いいえ、夕食はいつも通り〝ニコニコ弁当〟のサバ味噌デラックスです」

「ニコニコ弁当」

「はい。駅前の個人店なのですが、年中無休なので助かっています」

「個人店なのに、お休み無しなんて凄いですね――じゃないっ!」

彼のペースにはめられそうになるのを、寸でのところで堪えた。

「そうではなくて、随分とご機嫌に見えるので」

「ああ、それならば1時間前にオーガズムに達した余韻でしょう」

「はっ!?」

オーガズムというのは……その……性的なアレだろうか。

「ご存知ありませんか? オーガズムに達すると、セロトニン、オキシトシン、ノルエピネフリン、プロラクチン、バソプレシンなどが分泌され、穏やかで満ち足りた気持ちになるんです」

起床時に白湯を飲めば血液循環が良くなり、老廃物の排出を促します。
と、でもいうような口調で言われても、返答に困る。

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