桜田課長の秘密
「江本さん、眉間に皺が刻まれています」

『アンタのせいだよ』という言葉は飲み込み、指先を滑らせて皺を伸ばした。

「そうですか、それは良かったですね」

「はい、スッキリしました」

ひとりで達したのか、相手があったのかは知らない。
知りたくもない。
そして、まともに相手をしても疲れるだけだ。

気を取り直して、鍵とリストを手元に引き寄せる。

「月刊誌の連載が1本。週刊誌が2本。兼業作家なのに大変ですね」

「ショートスリーパーなので、問題ありません」

こともなげに言ってのけた彼は、一転。心配そうな顔をして私を見つめた。

「それより顔色が優れませんね。君も日中働いているんですから、空いた時間は自分の家だと思ってゆっくりしてください」

顔色が悪いのは、今日の仕事量が多すぎたせい。
実のところ、パソコン画面の見過ぎで軽い頭痛に襲われている。

それを伝えると『いけませんね』と立ち上がった課長は、頭痛薬でも持ってきてくれるのだろうか。部屋から出て行ってしまった。

< 65 / 90 >

この作品をシェア

pagetop