桜田課長の秘密
いったいどのくらいの時間がたったのだろう。

もう気持ちいいのか、辛いのかさえ分からなくて。
目の前の大きな胸に、必死でしがみついた。

そうしないと、どこでもないどこかへ落ちていくような気がした。


「ほら……もっと、気持ちよくなって」

「も、分かんな……、かっ……ちょう……怖い」


弱い所だけを優しく往復する指は、私を大きな波の中に引きずり込もうとする。

この波に飲まれたら、いったいどうなってしまうのか。
怖くてたまらなかった。


だけどもう……これ以上は……


背骨が折れるほどに、しなったあと。
落ちる――――


まるで底のない海に放り出されたように。
ゆっくりと、暗闇に落ちて行った。

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