桜田課長の秘密
狼がシジミに変わる朝
* * *

やりすぎた……

正気に戻った途端に、自責の念に押し潰されそうになった。


腕の中でクタリと脱力する彼女の身体は、信じられないほどに軽い。

力を込めれば抱き潰してしまいそうで、恐怖すら感じる。


しっかり、食べているのだろうか……


そういえば、PC画面の見過ぎで頭痛がすると言っていた。

どうせまた庶務課の課長や女子社員が、分別なく雑務を押し付けたのだろう。

ああ、僕も彼女に仕事を投げたんだった。

疲れた体を引きずって、ここに来たのだろうに。

それを僕というヤツは――――

自分は理性の塊だと思っていた。
彼女に対しても、小説のモデルとして節度のある接触をはかるつもりだった。

しかし潤んだ目で『優しくして下さい』と言われたあたりから、雲行きが怪しくなった。

僕のことが恐ろしくて堪らない。
そんな目をして震えているくせに……
感じやすい体を持て余して、恐怖の根源であるはずの僕に縋りつく。

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