藍色の夜
怖くて名前さえ聞けないほど、彼はその人の話をするとき甘い表情をする。私にも、私以外の人にも誰も見せない、そんな顔で。
私はその人の名前も知らないけど、性格はよく知っている。明るくて、誰にでも優しくて、花が咲いたように笑う人だった、と彼はよく私に話してくれたから。
そしてそんな言葉の次には必ず牽制を続けて。
「あいつは最期のとき勿忘草を置いてったんだ。勿忘草には『私を忘れないで』っていう花言葉があって。だから俺は、あいつがもうどこにも居なくても、もう二度と会えなくても、あいつだけを愛していこうって思うんだ」