【完結】その口止め料は高すぎますっ
昼からの式だったから、まだ4時前だ。

「どこかでお茶していこうか」春海が提案する。

「そうだね」まだしゃべり足りない。

「ええっとカフェ探そうか」

「駅の方に行く途中でなにかあるよね」

三人で歩き出そうとしたところで「花乃ー」という無遠慮で野太い声が、背後から投げつけられた。
その声はぐしゃり、という感触で背中にぶつかってべとりと張り付いて、ドレスまで汚された錯覚に陥る。
のろのろと振り向くと、粘性の糸が体に絡みつくようだ。

ずんずんと大股で近づいてくる。かつてはそんなところも堂々としてるな、なんて思ったものだっけ。
溝口先輩。

先輩、って面倒だな、とふとそんなことを思う。
一学年違うだけなのに、いつまでも先輩後輩で、別れても立場関係は変わらない。
もうなんとも思っていない相手でも『先輩』という呼び方には、敬いを押し付けられている響きがある。

…つまりそれくらい、わたしは目の前の相手と関わりたくないということ。
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