【完結】その口止め料は高すぎますっ
すぐ後ろで、春海と詩織が眉をひそめている気配が伝わってくる。

「結構です」
丁寧語を使うことも腹立たしくて、くるりと背を向けた。
どう言ったところで彼には日本語が通じる気がしなかった。『なに強がってんだよ』とニヤつきながら返ってくるだろうとたやすく想像がついた。

早く行こ、と視線と表情で春海と詩織に伝える。ふたりとも硬い表情で小さくうなずく。

おいちょっと、と焦りと苛立ちの混じった声が追いかけてくる。

うんざりだった。わたしが「えっ、いいの?」なんて上目遣いにスマホを取り出すとでも思って…たんだろうな。

背後から肩を掴まれる。力がこもった指だ。
迷惑だと、言葉でも行動でも表しているのに。わたしのことを自分の所有物だと疑っていない。

「おいってば」

「離して」
手を引き剥がそうと、身体をひねる。

———!
早足だったところを無理に止められて身体をひねったので、ヒールがアスファルトに引っ掛かる。
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