【完結】その口止め料は高すぎますっ
引き寄せられるようにその声のほうへ顔を上げて、「直斗さん…」と呆然とつぶやいた。いつのまにここへ———

へたりこんでいるせいか、直斗さんの顔がいつも以上に高い位置にあるように感じる。

すっとわたしの傍らに膝を折ってかがみこむと「だいじょうぶか?」と顔を覗きこんで問うてくる。

こくこくと首だけ上下させて答えると、小さく頷いた彼がためらわずわたしの背と膝の裏に腕を回す。そのまま軽々とわたしの体を抱き上げた。
急に視界が高くなって、小さく息を飲む。直斗さんの腕の確かさに満たされて、痛みすら忘れてしまいそうだ。

目の前には、ぽかんと口を半開きにしたなんとも間の抜けた溝口先輩の顔があった。

溝口先輩をちらりと見やり「花乃、誰? 知ってるひと?」と顔を寄せて直斗さんがつぶやく。

迷いは束の間、きっぱり首を横に振った。
「ううん、全然知らないひと」

だろうな、と気の無い調子で直斗さんがうなずく。
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