【完結】その口止め料は高すぎますっ
「過去を否定する必要はない。そこから進んでいけばいい」

直斗さんの言葉が、ゆっくりと心の深いところまで染みこんでいく。

「はい」
長かった。自分で自分に呆れてしまう。
傷を負って、壁を作ってその中に逃げこむことで自分を守っていた。恋をしなければ誰かを好きにならなければ、喧嘩することも傷つくことも別れることもないから。

そうやって、たったひとりぽつんと佇んでいた場所から、今日ようやく踏み出そうとしている。

マンションに着くと、直斗さんの腕につかまらせてもらいながら部屋に帰りついた。
靴を脱いだところで、彼はわたしの手をとって肩に乗せると、またわたしを抱き上げた。そのままバスルームに運ばれる。

救急箱を取ってくる、と彼が外しているあいだに手早くストッキングを脱いだ。
バスタブのふちに腰を下ろして、シャワーでちょろちょろと水を出して傷口を洗う。

「沁みない? だいじょうぶ」
直斗さんが箱を手に戻ってくる。

「深くはないので。それにしても転んで膝を擦りむくって、子どもみたい」
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