【完結】その口止め料は高すぎますっ
「大人になると転ばなくなるけど、それって子どもの頃に沢山転んで痛い思いしたからなんだよな」
口にしながら直斗さんがしゃがみこむ。

救急箱を開けると、ティッシュに消毒薬を染みこませて傷口に当ててくれる。さすがにひりつく刺激に目をつぶって奥歯に力を入れる。

と、くちびるが柔らかい熱でおおわれる。
驚いて目を開けると同時に、キスされているんだと分かる。
かがんでいた直斗さんが少し伸び上がって、くちびるを重ねている。

いつも上からだから、こうして見上げられてって初めてだな。

「痛いの、飛んでった?」
吐息が触れる距離で彼が訊く。

「うん、すっかり」
キスの甘さに傷の痛みなんて忘れてしまった。

よかった、と直斗さんが小さく笑む。

直斗さん、と今さらながら口にすることができた。
「今日は本当にありがとうございました。転んで痛くて情けなくて、そんなときに颯爽と来てくれて」

「どういたしまして。行った甲斐があったよ」
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