【完結】その口止め料は高すぎますっ
「ごめんなさいね、いきなり重いもの持たせちゃって」

エレベーターの庫内で二人きりになっても気詰まりにならないのは、お母様の朗らかな性質のおかげだろう。

「とんでもない、こんなことくらいしかできないので」

「あら、花乃さんの存在って特別なのよ。あの、わたしと主人にとってはということだけど」
お母様が意味ありげな視線をこちらに向ける。

「えっと、どうしてですか?」
話が飲み込めない。

「だってあの子が、直斗がお付き合いしている女性をわたしたちに紹介してくれたことって、今までなかったから」

「そうなんですか」
ちょっとした驚きだ。

エレベーターが一階について、スーツケースをゴロゴロと転がしながらお母様と並んで歩く。

「こんなことをわたしが言うのもだけど、直斗はあの通りこだわりが強いし妥協するってことを知らないから、デザイナーっていう仕事には向いてるんでしょうけど。きっと女性の好みもうるさいんだろうなって、わたしも主人も半分諦めてたの」

「…正直、わたしでいいのかなって思うこともあります」
直斗さんほどのひとに。
< 120 / 125 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop