【完結】その口止め料は高すぎますっ
「ああこの方なのね、って花乃さんにお会いしてわたしも主人も得心したわ。控えめで礼儀正しくて可愛らしいお嬢さんで。直斗のわがままに付き合ってくれるだけで、こっちは感謝感謝だわ」

「わたしはそれほどの…」
事実と合っているような違うような。

「あ、心配しないでね、その代わりというかあの子は好きなものはとことん大切にするから」
そうそう、と思い出したように「あれはパリにいた頃だったわね。文房具屋さんにあった色鉛筆のパレットがどうしても欲しいって、直斗が駄々をこねて。9歳の子どもがハンガーストライキみたいなことまでして。とうとう折れて買ってあげたら、一日中夢中で絵を描いてたわ。あの子、今もまだ持ってるんじゃないかしら、あのパレット」

画材の棚にひっそりと置かれていた、古びたパレットとちびた色鉛筆が鮮やかに思い出される。そんなに昔のものだったのか。

「昔っから欲しいものは何がなんでも手に入れようとするから、花乃さんにご迷惑をかけてないといいけど」

ころころと笑いながら言うお母様の隣で、冷や汗がにじんでしまった。
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