【完結】その口止め料は高すぎますっ
取引。そうだ彼の話は、取引だったんだ。

「仕事に打ち込んで、っていうと聞こえがいいけど。結局のところわがままなんだろうな。自分がやりたいことしかできない」

小原さんが誰ともなしにつぶやく。妙に説得力のある台詞だった。
それでも疑問は残る。

「どうしてわたしなんですか? 小原さんなら、他にいくらでも…」
それこそ “ふり” じゃなくて、本物の婚約者に名乗りをあげる女性もいるだろう。
美貌とか学歴とか、もっとスペックの高い女性のほうが彼にはふさわしいはずだ。

「期間限定で婚約者の役をやってほしい、なんてムシのいい話が誰にでもできるわけじゃない」

それはそうかもしれないけど。

「牧瀬さんなら彼女設定のストーリーも作りやすい。同じ会社の関連部署で働くうちに、仲良くなって…っていう流れなら自然だから」

「いやそんな…」

言い募ろうとすると、「ともかくこれは取引だ」と向かいの小原さんが不敵に笑んだ。
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