【完結】その口止め料は高すぎますっ
レディのように丁重に扱われると、拍子抜けしてしまう。

反発心や不安、緊張でささくれている神経が、ゆっくり撫で下ろされてるみたいだ。
それでも玄関に足を踏み入れるときは、やはり緊張感が増した。
本能的に相手のテリトリーだと感じているからなのか。それにしても玄関からして、わたしが住んでいるマンションの三倍はありそうだ。

モダンですっきりとした空間が小原さんの印象と重なる。
広さに比べて、家具や調度品はそれほど多くない印象だ。

「素敵なお部屋ですね」
素直な感想を口にする。

「ちょっと足りない、くらいが今はちょうどいいと思ってる。そこを埋めるものをイメージするのが楽しい」

なるほど、さすがデザイナー。

「こっちが牧瀬さんの部屋。ゲストルームを使って」
スーツケースを持って、彼が導く。

自分の部屋を与えてもらえることに、内心ホッとした。
ふり、とはいえ恋人役の男性と一つ屋根の下で暮らすという事態。ふたりとも子どもじゃない。
したくもない想像も頭をよぎってしまう。

杞憂で終わってくれればいい。
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